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仙台高等裁判所 昭和38年(く)7号 決定 1963年5月06日

少年 H(昭一九・六・一三生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、附添人弁護士今井吉之名義の抗告申立書の記載と同じであるから、これを引用する。

抗告趣意に対する当裁判所の判断はつぎのとおりである。

一、論旨は、原判決の罪となるべき事実第二の犯行当時少年は飲酒酩酊のため心神喪失の状態にあつたものである旨主張する。なるほど少年の司法警察員に対する昭和三七年一〇月二日付供述調書によれば、少年の酒量は、ビールなら二本位で、それ以上飲んだことがないというのであるところ、本件犯行の当夜は、友人Kと共に酒場でビール四本、酒を銚子で四本位飲んだというのであるから、仮りに少年がその半分位を飲んだとしても、少年の平素の酒量をはるかに超えているので、これによりかなり酔つたであろうことは推認するに難くなく、そして少年は警察員の調べでも、原審の審判期日における陳述でも、本件の犯行はよく記憶していないと述べているのであるが、少年は右警察員の取り調べで、犯行当時全部覚えがあつても、一旦寝たりして酔いのさめた後は覚えていないというのであつて、少年に対する前記警察員の取り調べは、犯行後三日目になされたのであり、原審の審判期日は半年もたつて開かれたものであるから、少年が犯行当時のことを記憶していないと述べたからといつても必ずしもこのことから少年が本件犯行当時心神喪失の状態にあつたものとはいえない。本件の被害者○藤○郎の司法警察員に対する供述調書によれば、同人が映画館の芥を掃き集めこれをリヤカーに積んで引いてくると、少年がきていきなりリヤカーを掴まえ、後ろに押したり、前に引いたりしていたずらするので、やめてくれというと、少年はやめたのでリヤカーを引いて行くと、再び少年が追いかけてきて「芥集め、この乞食野郎」といいながら○藤の前に立ちふさがり、同人の顔面を殴打したことが認められるので、少年は当時酒に酔つていたとはいいながら、○藤を追いかけて走つたり、○藤が芥集めをしていることを認識して同人に右のように申し向けたことが明らかであるから、これらの点からして、少年が所論の如く当時酩酊のため心神喪失の状態にあつたものとは認められない。

二、記録によれば、少年は新制高等学校に入つたころから悪友と交わり、喫煙、飲酒をなし、同二年在学中に、家出した女子学生を旅館に連れ込み強姦未遂事件をひき起したことが学校当局に知れて退学処分を受け、その後上京し就職したが四ヵ月余りで帰省し、再び非行少年と交際し始めているうち本件の各犯行に及んだもので、(原決定中本件第三の事実の被害者の氏名が明らかにされていないが、○井○雄を書き洩らしたことが明らかである)犯行の都度警察の取り調べを受けながらその非行を悔い改めることをしなかつたもので、殊に本件第三の犯行後は逃走してその所在を晦まし、一度帰宅した際父から自首をすすめられたがこれに肯ぜず「働きに行くから金をくれ」と云つて三、〇〇〇円を貰い、郡山市、東京都等を転々した後警察局が逮捕状により少年を搜査していることを知つて右犯行後六五日目に初めて自首して出たものであることが認められ、一方少年の家庭は、少年を盲愛する実父と遠慮勝ちな継母で、少年を指導監督する保護能力は十分とは認められない。

以上の点からして、原裁判所が少年に対し今後健全な社会生活を営ましめるため矯正教育を施すのが相当であるとして少年を中等少年院に送致する旨の決定をしたことは相当であつて、原決定には所論の如き決定に影響を及ぼす重大な事実誤認または処分の著しい不当は認められないので、論旨はいずれも理由がない。

よつて、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により本件抗告を棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 斎藤寿郎 裁判官 斎藤勝雄 裁判官 杉本正雄)

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